姫路・西はりま 地場産業紹介

清酒

ボルト・ナットの歴史

ねじとボルト・ナット

ねじとボルト・ナット

一般的に「ねじ」とは、いろいろな物を接合するために用いられるねじ山を持った「ねじ部品」を指します。しかし、本来「ねじ」とは、ねじ山の形状やピッチなどのことをいい、その種類としてボルトやナットがあります。一般的に分類すると、めネジとしてはナット、おネジとしてはボルトや小ネジ、止めネジやタッピンネジ、木ネジなどがあります。つまり、「ねじ」というグループの中にボルトやナットがあり、ねじが外側に付いているものがボルトで、内側に付いているものがナット、というイメージです。 では、これらボルトやナットなどのねじは、どのように発展してきたのでしょうか。

人類とねじのかかわり

その起源として考えられている代表的なものには、巻貝をヒントにしたという説と、木に巻きつく蔓植物をヒントにしたという説があります。これらをヒントにして人類は自らねじを製作し、それを様々な用途で役立ててきました。 現在では、ねじを使わない機械は存在しないというほど、あらゆる場面での必需品として普及しています。

締結ねじの出現は、西暦1500年前後

レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452~1519)が残したノートの中に、タップ・ダイスによるねじ加工の原理がスケッチされています。さらに彼は、ねじ切り旋盤のスケッチも残しており、これは2本の親ねじ、スライトレストと換え歯車まで用意した、近代的な構造のものです。また、ドイツ人のゲォルク・アグリコラ(1494~1555)の著書に出ている鞴(ふいご)の製法を示す図には、先がとがって頭部にすりわりのある木ねじのようなものが描かれています。このことから、金属製のボルト・ナット・小ねじ・木ねじ類は、1,500年前後に出現したと考えられます。 当時、ねじは主に馬車や荷車などの組み立てに使われましたが、一部の鎧では、前方から身体を入れて胸当てをねじで止めるタイプの鎧も存在しました。フランスのルイ11世(1461~1483)は、金属製のねじで組み立てた木製のベッドを使用していたそうです。

日本人が見た最初の締結ねじ

1543年に種子島に漂着したポルトガル人が携えていた2挺の小銃を、領主種子島時堯が、大金を投じて買い上げました。時堯は、1挺を刀鍛冶八坂金兵衛に見本として与えて模作を命じ、金兵衛は約1年後に製作に成功しました。この伝来銃の銃底をふさぐための「尾栓」と、それがねじ込まれる銃底の「めねじ」が、日本人が見た最初のねじであるとされています。 金兵衛にとって、尾栓の「おねじ」の加工は比較的容易であったようです。糸をコイル状に巻きつけて、その線に沿ってやすりで切り込んでいくといった方法を用いたと考えられます。しかし、金属加工用工具として「やすり」と「たがね」しかなかった当時の当時の刀鍛冶の技術からすると、銃底の「めねじ」の加工は難題だったと考えられますが、尾栓のおねじを雄型として熱間鍛造法で製作したのではないかと推定されます。 金兵衛が製作したと伝えられる銃は、現在も西之表市の種子島博物館に、伝来銃と並んで展示されています。

金属製のねじ切り旋盤

フランスの数学者ジャック・ベンソン(1500~1569)は、独特なねじ切り旋盤の絵を残しています。しかしこれは、構想としては優れていますが、木製である限りうまく作動しなかったのではないかと思われています。 1830年頃、イギリスのヘンリー・モーズレイが、金属製シャーシのねじ切り旋盤を製作しました。この機械の開発によってより精度が高いねじの大量生産が可能になり、刻印した物同士でしか使用できない時代が終わりました。

ISOねじで世界を結ぶ

1770年代、イギリスの産業革命が進むにつれて、ボルト・ナット類の需要は爆発的に増えました。これらは専門のメーカーがまとめて製作していましたが、機械メーカーがそれぞれ独自の直径やピッチのものを注文していたため、種類が膨大な数となり、まとめて製作する利点がほとんど生かされない状態になっていました。 そこで、モーズレイに続いてねじ切り旋盤の改良に従事していたサー・ジョセフ・ウィットウォース(1803~1887)は、勝手気ままなピッチ・山形・外径などを調査し、1841年に「ウィット・ウォースねじ」と称するねじの形式を発表しました。この普及活動を行った結果、イギリスでは「ウィット・ウォースねじ」が標準となり、後にイギリスの規格(BS規格)として正式に採用されます。 また、アメリカの「アメリカ規格」やフランスなどの「SI規格」、その他のヨーロッパ各国などの「ISAメートルねじ」、アメリカ、イギリス、カナダの三国の「ユニファイねじ」など、各国で独自の規格が制定されました。 このため、1947年に設立されたISO(国際標準化機構)は、1957年に全世界共通の規格として、「ISAメートルねじ」を「ISOメートルねじ」とし、「ユニファイねじ」を「ISOインチねじ」として採用するに至りました。 日本では日本工業規格(JIS)で、一般に用いるねじとしては「ISOメートルねじ」を、航空機その他特に必要な場合に「ISOインチねじ」を用いることを定めています。

兵庫県のボルト・ナット産業

兵庫県のボルト・ナット生産

兵庫県内におけるボルト・ナット製造業者の地域分布は、主にナットを製造している姫路市地域と、主にボルト・ナット両方を製造している神戸市地域に大別することができます。 ボルトは神戸市を中心に産地が形成されており、その背景として、地域内に造船・製鉄・機械などの大企業の生産拠点が数多く立地し、各種ボルトの一大消費地であったことが挙げられます。 当地には、大企業との協力関係や下請関係にある企業が多いものの、近年では大阪や東京など他地域への販路拡大や、海外への輸出なども積極的に推進しています。

姫路のナット産業

播州平野が瀬戸内海に接する姫路の白浜地域では、近世以来、鍛冶・農業・塩田業などが行われ、鍛冶職人は城の腰板などに使用する各種の曲がり釘や小釘を作っていました。明治期には、鞴(ふいご)と鍛冶度具を持つ彼らは、和釘の衰退に直面して船釘や鎖、錨、リベット、ナットなどに活路を求めました。 当初、ナットは造船のポンチカスを利用した手打ち火造りの「和ナット」で、ねじ立ては手回しのタップで行っていました。こうしたナットの生産が活発化するのは、瀬川末治氏(瀬川鉄工所)が造船用ナットの生産に乗り出した明治末期頃からです。大正期に入ると次々と参入事業者が加わり、それぞれ船舶用、鉄道用などのボルト・ナット工場が創業され、中には製鎖工場から転業する者も現れました。また、「和ナット」から平鋼製ナット(一般に平製ナットと呼ばれた)への移行も業者数の増大を助け、これらの生産量は急増していきました。 昭和10年(1935年)に、大阪・田條工作所を通じて丸鋼からナット素材を成形できる丸製ナット機がこの地に導入されると、従来の製法はこの新しい丸製ナット方式に一変することとなります。この製法は、昭和30年代の熱間ナットホーマーの登場まで大径ナット生産の主流となり、白浜地域におけるこの種のナットの生産量は、全国生産の大半を占めていました。 現在、製造業の海外進出による製造拠点の減少や、建設業等の国内需要先の景気低迷から需要は伸び悩んでいます。しかし、機械系工業の高度化・近代化につれて、メカトロニクスやロボット生産に必要な精密・高級な製品分野が新しい需要を生む方向にあるため、業界は製品の多様化・高級化など、質の転換と安価な輸入品との共在を今後の課題として取り組んでいます。

データでみるボルト・ナット産業

兵庫県内企業数・従業員数・生産高

年次 企業数 従業員数 生産量(トン) 生産金額(百万円)
(平成) 産地内 全国 産地内 全国
7年 25 698 81,900 2,690,000 17,070 704,700
8年 25 700 82,600 2,710,000 17,530 724,000
9年 23 670 84,080 2,760,000 17,880 740,800
10年 20 580 75,251 2,470,000 15,162 628,200
11年 17 500 73,000 2,430,000 15,000 623,100
12年 15 480 72,800 2,600,000 15,200 663,085
15年 15 450 73,000 2,606,000 14,900 647,920
16年 13 430 54,100 2,819,630 15,000 702,329
17年 13 440 56,134 2,957,351 16,368 765,873
18年 13 440 59,479 3,124,987 15,745 831,923
19年 13 439 60,364 3,335,488 17,813 900,542
20年 13 440 54,896 3,208,819 17,421 898,037
21年 13 470 45,268 2,223,483 15,283 627,383
22年 - - - 2,868,478 - 808,790-
23年 13 413 37,739 2,767,136 8,595 789,255
24年 13 401 38,612 2,962,263 8,702 837,249
25年 13 462 49,185 2,877,490 11,130 826,358
26年 13 425 49,232 2,935,912 11,344 844,090
27年 13 424 47,046 2,889,298 11,049 828,922
28年 13 409 43,455 3,010,056 9,071 851,090
出所:兵庫県鋲螺釘工業協同組合

企業の地域別分布状況(平成28年現在)

神戸市 姫路市
企業数 7 6 13
従業員数 204 205 409
生産量(トン) 23,807 19,648 43,455
生産金額(百万円) 5,739 3,332 9,071
出所:兵庫県鋲螺釘工業協同組合

ボルト・ナットの種類

ボルトの種類

六角ボルト 六角ボルト
一般的にボルトという場合、このタイプを指すことが多いです。 写真は全ねじ(押しねじ)タイプですが、半ねじ(中ボルト)タイプもあります。
キャップボルト キャップボルト
締め付けは六角レンチで行います。レンチの差し込み部分が低い低頭タイプや、ボタンキャップ・皿キャップなどもあります。
アイボルト アイボルト
フックの取り付けが行いやすい形状で、吊りしろの取れない大型機器の輸送や取り付けに便利です。 ねじ部の長いロングタイプや、雌ねじタイプのアイナットもあります。
蝶ボルト 蝶ボルト
手で締め付けや取り外しがしやすい形状です。羽の形状によって、1種から3種があります。
Uボルト 三神
主に配管の固定に使用します。ねじ径・管径・足の長さの特殊なものや、コの字型・V字型等のように、形状が特殊なものもあります。
アジャストボルト アジャストボルト
設置機器の高さ調整や、水平保持のために使用します。写真は標準タイプで、他にも重量物用や振動防止ラバー付タイプ、固定用ボルト穴付タイプもあります。

ナットの種類

六角ナット 六角ナット
高さと面の取り方などの違いで、1種から3種・10割ナットなどがあります。一般的には、雄ねじと同じ材質の1種ナット(高さ:ねじ径の約80% / 片面取り)が使われています。
種類 高さ 面取り
1種 ねじ径の約80% 片面
2種 ねじ径の約80% 両面
3種 ねじ径の約80% 両面
10割 ネジ径の約100% 片面
袋ナット 袋ナット
危険防止や美観の向上を目的として、ねじ部が突き出さないよう、袋状になっています。
アイナット アイナット
輸送用フックの取り付けが行いやすい形状で、吊りしろの取れない大型機器の輸送や取り付けに使用します。
蝶ナット 蝶ボルト
手で締め付けや取り外しがしやすい形状です。羽の形状により、1種から4種があります。
高ナット 高ナット
ねじ同士のジョイントや調整などに使用します。
フランジ付六角ナット フランジ付六角ナット
ナットの片面がツバ状になっているため、作業効率が良く、フランジ部の弾性による緩み止め効果があります。

ナットができるまで

ナットができるまで

ナットができるまで

鍛造

金属を加熱して叩きながら強度の高い製品を造る方法のことで、次の3種類に区分されます。

1. 冷間圧造

コイル状の素材を、加熱せずに常温で連続的に一定以上の力を加えることで、圧造成形する加工方法です。 素材をそのまま加工するため、切削加工より材料ロスが少ない上にスピードも速く、温間加工や熱間鍛造加工と比較しても、熱による歪みが少ないため精度が高くなり、金型によって圧造成形するので、均一な製品を造ることができます。このため、量産品においては、もっとも普及している方法です。

2. 熱間圧造(鍛造)・高温圧造

熱を加えると柔らかくなるという金属の性質を利用し、高温に加熱した材料に圧力をかけて加工する方法です。 あまり高温に上げすぎると溶融してしまうため、変態点(金属組織が変わる温度)よりやや高く、溶融温度よりも低い温度で行われます。

3. 温間圧造

冷間圧造と熱間圧造の中間の加工方法で、形状や加工精度、生産性等の面において、冷間・熱間でも難しいような場合に用いられます。

原材料について

ボルト・ナットの原材料

原材料について

通常は締結等を目的として使われるため、強度と耐久性を考慮して、鉄・ステンレス・真鍮等を原材料とし、必要に応じて表面処理を施します。 しかし、主目的が装飾や導電性であったり、重量や磁性・非磁性の制約など複合的な条件に合わせる必要がある場合は、銅・燐青銅・アルミ・チタン・樹脂系といった様々な材料が使われます。

鉄鋼材

分類 名称 記号 用途
棒鋼・形鋼 一般構造用圧延鋼材 SS400 ボルト・ナット
鋼板・鋼帯 みがき特殊帯鋼 S50CM 歯付座金
線材 冷間圧造用炭素鋼線 SWCH** 小ねじ・タッピング
硬鋼線材 SWRH ばね座金 等
機械構造用炭素鋼 機械構造用炭素鋼材 S**C ピン類 各種部品
ニッケルクロム鋼鋼材 SNC***
機械構造用合金鋼 ニッケルクロムモリブデン鋼 SNCM*** キャップボルト
クロームモリブデン鋼 SCM***
高温用合金ボルト材 SNB** 高温用ボルト・ナット
特殊用途鋼 硫黄快削鋼鋼材 SUM31 切削ねじ 等
鋳鍛造品 炭素鋼鍛鋼品 SF440A 蝶ボルト・蝶ナット

ステンレス

主に、耐食を目的として使われます。

真鍮

導電性に優れるため、電気部品の端子止め用等に使われます。

樹脂

樹脂は、鉄等の金属材料に比べて軽量で、耐薬品性や絶縁性に優れており、磁性を帯びません。

チタン

軽量で強度が高く、非磁性であり、耐食性・耐熱性・耐寒性・対疲労性・対摩耗性に優れた理想的な材料です。そのため、航空・宇宙産業、石油・化学プラント、電力プラント等を中心に使用されており、今後も多くの分野での需要が見込まれています。 わずかな誤差さえ許容できない精密機器の利用に最適で、上記の特徴の他、金属アレルギーを起こしにくいという特徴もあり、医療分野でも欠かせない材料となっています。さらには、装身具等への需要も高まりつつあります。

表面処理について

ボルト・ナットの様々な表面処理

耐久性の向上や総力を目的として施される表面処理の呼称は、必ずしも規定のものではなく、通称や俗称などが一般化しているものがあります。

クロメートメッキ 下地に電気亜鉛メッキを貼り、その上にクロメート処理を施します。※正しくは「有色クロメート
ユニクロメッキ シルバー色。電気亜鉛メッキの1つで、耐食性はクロメートよりやや劣ります。※正しくは「光沢クロメート」
黒色クロメート 黒色。電気亜鉛メッキに硝酸銀等を含んだ溶液でクロメート処理を施し、耐食性はクロメートよりやや劣りますが、ユニクロより優れています。
ニッケルメッキ シルバー色に輝く光沢をもち、ピンホールがあるため電気亜鉛メッキ+クロメート処理ほどの防錆力はなく、時間とともに変色しやすい傾向にあります。
クロームメッキ ニッケルよりも重圧な光沢があり、耐摩耗性も良好です。耐食性が特に優れています。
ドブメッキ グレー色。溶かした亜鉛の中に漬けてメッキするため、防錆力が強く、コストの割に優れた耐食性があります。しかし、メッキ厚が厚く不均一なために、ゲージ管理ができません。
ダクロダイズド 主成分の亜鉛とクロム酸を含んだ処理液に浸漬塗装した後、過熱した素地に焼き付けます。塩酸処理を行わないので水素脆性の危険がなく、耐食性・耐熱性も電気亜鉛メッキより優れています。めねじはオーバータップにしておく必要があり、グレー色です。
パシペート 加工や熱処理を施したステンレス鋼の表面に、不動態化皮膜を生成させるための処理です。
ラスパート 金属亜鉛→高耐食性化成被膜→セラミック材を塗装→加熱処理をして素地に焼き付けます。耐食性、耐熱性、耐酸性、耐アルカリ性に優れ、シルバー、ブラック、グレー等の色づけが可能です。
古美処理 古くから金属器の製作に不可欠な方法として活用されてきたものが、銅、銅合金の化成着色です。素材表面に硫化物や酸化物の被膜を形成させる手法で、古銅色や青戻し、斑朱銅、青銅色等の渋い色調が付与されます。
黒染め 濃厚な苛性ソーダに反応促進剤、染料を加えた水溶液を140℃前後に加熱沸騰し、脱脂、脱錆の前処理を終えた製品を浸漬して煮込み、四三酸化鉄被膜を生成します。皮膜の組成自体は安定していますが、結晶粒間に多くの空隙があるため、洗浄後、防錆油を塗布しますが、防錆力はメッキより落ちます。

サイズ表記法

ボルトのサイズ表記

ボルトなどのねじ類は、通常(ねじ径)×(長さ)という形でサイズを表します。ねじ径について、<M○○>と表記されているものはミリねじ、<W○○>と表記されているものはインチねじ(ウィット)を表します。 また、(ねじ径)×(長さ)の後に、×(ねじ部)が付く場合がありますが、これは全長のうち、ねじ山の長さを表すものです

ワッシャーのサイズ表記

ワッシャーの場合、(内径)×(外径)×(厚み)と、3つの数字を使って表記されます

ナットのサイズ表記

ナットは通常、<M○○>または<W○○>といった形で、めねじ径でサイズを表します。ボルトと同様に、前者がミリねじ、後者がインチねじ(ウィット)を表します。

表記例

例えば、下図のボルトですと、「六角ボルト 中 16×80-4.8」と表記されます。 ※ ボルト頭部には、生産者・強度区分が確認できるようになっています。

表記例

一般的には、「中ボルトM16×80」と呼びますが、ねじ部の長さがJIS 1180によらない場合は、「中ボルトM16×80×38」(b=38の場合)と表記されることもあります。

お問い合わせ窓口

兵庫県内のボルト・ナットの歴史等についてのお問い合わせ

連絡先団体名:兵庫県鋲螺釘工業協同組合
所在地:〒650-0011 兵庫県神戸市中央区下山手通4-16-3(兵庫県中小企業団体中央会内)
TEL:078-331-2045 FAX:078-331-2095
URL:https://www.hyogo-byouratei.jp